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万年筆には「ホンマモンの味わい」がある 梅田晴夫『万年筆』より

万年筆には「ホンマモンの味わい」がある 梅田晴夫『万年筆』より

梅田晴夫(1978)『万年筆』平凡社カラー新書

1978年に平凡社から出版。40年前の本。

紹介文からの引用

「L.E.ウォーターマンによっていわゆる「万年筆」第1号が誕生したのは1884年のことであった。5000年来の筆記具に対する人類のはげしい欲望を満たすために、万年筆はその後どのような発達をとげたのか。たった1本の「理想の万年筆」を求めて1000本以上の万年筆を蒐めた筆者が、この小さなモノに限りない愛情をそそぎつつ語る万年筆のたしなみ方」

内容は、“書く”ということ、万年筆前史、ペン先の移りかわりとインク、文豪と万年筆、何故万年筆なのか、万年筆の誕生日、万年筆と福沢諭吉、万年筆という名の由来、万年筆の歩み90年、年筆の西洋史、万年筆の日本史、万年筆戦争のてんまつ、よい万年筆と結婚する方法など、となっている。
いくつか、気になる部分を以下に引用する。

万年筆蒐集について

「私自身のコレクションのごく一部をカラー写真で紹介する本書が発刊されたのを機会として、万年筆への関心がたかまり、やがて万年筆蒐集人口が飛躍的にふえてくれることを、私は心から祈っている。」(p.144)

昨今の万年筆ブームはまさに36年前に梅田氏が描いた姿に近づいているかもしれない。

万年筆で一番大切なこと

「私が万年筆について、なにが一番大切だと考えているかといえば、それはその「重心」と「目方」と「長さ」ということなのである。これまで万年筆のよしあしを決定づけるものは、といえば、それは「ペン先」と「ペン芯」と「インクの吸引機構」の三つだといわれてきたが、もちろんそれは万年筆のメカニズムにおける三つの重要な要素であることはまちがいない。」(梅田晴夫,1978,p.136)

最近は、インクの吸引機構にこだわることが少なくなったのではないか。

当時の国産万年筆メーカーについて

「デザインもすぐれたものがあるし、また包装によるメークアップも時とともによくなり、もちろんアフターケアも十二分になったわが国の万年筆メーカーなのだが、私の言う三大要素をみたしたものがまだないというのはいかにも残念に思われるのだ。」(同,p.137)

最近は、国産万円筆メーカーからも、物書きのプロから評価が高いものがある。

梅田氏は、万年筆蒐集家として有名であるが、それは一面に過ぎない。梅田氏のモノに対する信念は以下の哲学にあると思う。

(1977)暮らしの設計NO.117『世界の文房具 その豊富な種類と楽しさを満載』中央公論社梅田晴夫氏が「ホンマモンの味わい」から引用。

「なぜ私があえて≪不便≫であるかもしれないこの古めかしいタイプライターを日々つかいつづけているのかといえば、それはこの私が常に、モノをつくるにあたって、丹念に、しかも手抜きということを一切せずにつくるという、昔ならごく当たり前だった職人の精神に、直接指を通じて触れていたいという気持からである。(中略)≪ホンマモン≫に接することによって、この人生が並々ならぬものであることを肌身に感じうる生活は、常に私の心をみずみずしい緊張ではりつめてくれることによって、私に若さをも保証してくれるように思われるのである。そして、そのそのことこそが、≪ホンマモン≫の真の味わいなのだと、私は考えている」(p.164)

 

 

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