道具に対する感謝と愛情
串田孫一『文房具』白日社
『文房具』は、1978年に白日社から出版(当時1600円)。ウィキペディアでは、著者の串田氏は詩人、哲学者、随筆家と紹介されている。
この本ができたいきさつについて、筆者は次のように書いている。
「文房具については前々から書いて置きたいと思っていた。子供の頃からの長い付き合いだし、自分の仕事の大切な道具である。」(p.199)
また、「私は自分の想い出を成るべく単純に書くことにした。しかしそんなに特殊な想い出があるわけでもなく、だれもが似たような経験を持っていると思う。ただ自分が使って役に立った品物に対して感謝の気持は失わなかったつもりである。」(p.201)
串田氏は、戦前、戦中、戦後を通して、帳面の手に入れやすさやその品質から、平和が戻ってきたと感じることを以下のように記している。
「昭和のはじめ、まだ戦争などのことを考えていなかった頃、縦罫の帳面を買うのに困らなかった。安いものから城東のもの、薄い一帖綴のものから五帖ぐらいの厚いものまで、私の記憶では少し大きい文房具店へ行けばいつでも揃っていた。
それが、先程も書いたように、戦争中に、紙質が落ちていっただけでなしに、入手が極めて困難になり、勤先の大学から証明書を貰ってやっと買ったこともあった。その頃には帳面の種類など選ぶどころではなかった。
再び物が豊富に店先に並ぶ時代がきて、文房具店も賑やかになってきた。物が乏しくなって行く時の習慣が残っていて、帳面もつい五、六冊ずつ買ってしまい、数日後もっと上等なものを見付けて口惜しい思いをした。その頃に私は縦罫の、フールス版の実によい帳面を見付けた。こんないい帳面ができるようになったのなら、もう平和が戻ってきたと思う。」(串田孫一,1978,pp.9-10)
この本は、帳面やペン先からはじまり、消ゴム、ぶんまわし、万年筆、糊、手帳、文鎮、封筒、便箋、スタンプ台、筆、セロテープ、ホッチキス、テープ・ライター、スクラップ・ブック、筆入、算盤、地球儀、文化を守る力、後記といった構成になっている。
哲学者や詩人という肩書からこの本に対する先入観を持ってしまったが、とにかくこの本は読みやすい。物がなかなか手に入らなかった時代を過ごした筆者の道具に対する感謝と愛情が感じるられる一冊である。自分の身近なモノにはこういう思いを持ちたいものだ。
なお、2001年に筑摩書房から 『文房具56話』(ちくま文庫)として再版されています(加筆・修正あり)。
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