”モノ”へのこだわりは”生活”そのものへのこだわり 板坂元”紳士シリーズ”より
板坂元(1993)『紳士の小道具』、(1994)『紳士の文房具』、(1996)『紳士の食卓』、(1998)『紳士の粋』
この4冊は、板坂氏が1990年代に雑誌に連載していたものをまとめたものである。
小道具、文房具、食卓といった「モノ」をテーマにしたエッセイである。この一連のシリーズで筆者がいいたことは、「モノへのこだわりは、自分の生活そのものへのこだわり」だということである。そのこだわりこそが、自らの生活を豊かにするものであるということだ。
筆者の首長を逆に捉えれば、モノにこだわりをもたないということは、生活にこだわりをもたないということなのか。しかし、モノにこだわらないが、自分のライフスタイルにはこだわるということは、シンプルライフやミニマリストというスタイルで暮らす人が少なくないことからも、”モノへのこだわり=生活へのこだわり”という式は成り立たないような気がする。生活にこだわるということと、モノへこだわるということはイコールではないが、生活にこだわる生き方のひとつであると思う。当然、どちらのライフスタイルが優れているかという問題ではない。
このシリーズは、小道具⇒文房具⇒食卓⇒粋といった順番にテーマとするモノが広がっていく。4冊を通じて、モノやコトへのこだわりが、生活を豊かにする≒板坂氏のいう”粋な生活をする”ことを主張している。粋とは何か。このシリーズ最後の『紳士の粋』でも、「粋」が直接的に説明されているわけではない。ただ説明はないが、読者は「粋」を感じることができる読み物になっているように思う。「粋」をどのように感じるかどうかは、読者におまかせというわけだ。