モノへのこだわりこそが生活を豊かにする 板坂元『人生後半のための知的生活入門』より
板坂元(1994)『人生後半のための知的生活入門』
この本のタイトルに「知的生活」とあるが、知的生活とは一体どのような生活なのかということは、この本に書かれていない。知的生活とは何か、どのようになし得るのかが直接的に語られている本ではなく、全体を通じて、”日常の中でこんな工夫をすることが知的な生活につながるんだな。”といったことを教えてくれる本である。そもそもエッセイとは筆者の考えを気楽に述べた文章だ。
『人生後半のための知的生活入門』は筆者が70代のときに執筆したもので、趣旨は以下のとおりである。
50歳からでも夢中になれる趣味の持ちかた、こだわりの読書術、心身の老化を防ぐ工夫など、とっておきの秘訣を開陳する。
個人的に印象に残ったのが第4章のなかの「見て触って得る知的向上」という文章だ。ここでは、筆者が料理を盛る器=”やきもの”をテーマにして、料理は器と盛り付けで差がつくという、筆者のこだわりが語られている。
とくに、次の以下の文章には筆者のモノと生活の豊かさに対する考え方が直接語られている。
「季節感を出すためには、色や模様についての配慮が必要だろう。贅沢な器物だけが魅力ではなく、何でもない皿や鉢でも充分に雰囲気を生み出すことができる。」
そして、器や盛り付けへのこだわりが、「生活をより豊かにする道であり、授業料を必要としない知的向上のよすがにもなるのだから」と述べる。モノへのこだわりこそが、生活を豊かにするということだろう。要するに、文房具や器に限らず、日常生活の中で使うもの(普段使うもの)に対して、どれだけこだわりを持つことができるのか。そのこだわりこそが、日々の知的生活に寄与するのだ。