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情報を”メタ化”する思考 外山滋比古『思考の整理学』より

情報を”メタ化”する思考 外山滋比古『思考の整理学』より

外山滋比古(1983)『思考の整理学』筑摩書房

知的生活に関する古典である。何かを創造するさいの筆者の経験が存分に語られている。読み手によって様々なインスピレーションを得られる本であると思う。
本書は考え方のテクニカルな部分も多く紹介しているが、本質は「情報のメタ化」の重要性を指摘していることであろう。

メタ(meta)とは他の語の上に付く言葉。「高次な―」「超―」「―間の」「―を含んだ」「―の後ろの」等の意味をもつ接頭語。ギリシア語。
最近では、メタデータという言葉をしばしば耳にする。これは、データについてのデータ、すなわちデータそのものではなく、そのデータに関連する情報のこと。データの作成日時や作成者、データ形式、タイトル、注釈などが考えられる。データを効率的に管理したり検索したりするために用いられる。

ある事象に対しての高次の視点や立場を意味する語。例えば自己に対する自身の認知を、更に高次の視点から俯瞰して認知することを「メタ認知」と呼んだり、ある物語の登場人物が読者の視点で語ることを「メタ発言」と呼ぶ。 (実用日本語表現辞典より引用)

「情報のメタ化」

本書のタイトルである思考の整理とは、低次の思考を“抽象のハシゴ”を登ってメタ化していくこと。一次的思考から二次的思考、三次的思考に高める思考の質的変化である。思考の質的変化を起こすためには、この本に書かれている様々なテクニックを活用することが有用であるという。

情報区分 思考の次元
第一次情報 一次的思考 事件、事実などニュース

具体

 

 

抽象

第二次情報

第一次情報をメタ情報化

二次的思考(メタ思考)

発酵、混合、アナロジー等

社説、ダイジェスト、要約、圧縮
第三次情報

第二次情報をさらに抽象化

三次的思考(哲学化思考) 論文

この表は、管理人が自らの解釈をもとに作成したものである。研究論文の最終的な目的は一般化、抽象化である。
この『思考の整理学』は、「情報のメタ化」の項を読んだうえで、読み始めることがおすすめだ。

その他、個人的にインスピレーションを得た個所についてコメントしておく。

「寝させる」

筆者は、「われわれの多くは、この朝のひとときをほとんど活用していないでいるのではあるまいか」という問題意識から、無意識の時間を積極的に活用のすすめである。筆者の「一晩寝てからいい考えが浮かぶ」という経験を積極的に活用して、発想する。ただし、一生懸命考えたうえでの無意識の時間の活用を指摘しているのであって、単なる先送りではないことを筆者は注意している。

時間に余裕がない場合は怖くて使えないテクニックである。ただ、個人的な経験からもこれは有効だと思う。

「エディターシップ」

「全体は部分の総和にあらず」。「上手に編集すれば、部分の総和よりはるかにおもしろい全体の効果が出るし、各部分もそれぞれ単独の表現だったときに比べて数等見栄えがする。」「編集」を第二次的創造として価値を語る。二つの創造活動には同じ価値があるという。

第一次的創造 = 原稿を書くこと。クリエイション。
第二次的創造 = 原稿をより大きな全体にまとめること。編集。

筆者が「編集」の本質を語っている部分である。

「既知・未知」

知的活動には三つの種類があるという。

A = 既知のことを再認する
B = 未知のことを理解する
C = まったく新しい世界に挑戦する

ここでは、筆者は、物語や小説を読む際の留意点として既知を読む読書(A)未知を読む読書(BとC)の二つに分けて解説している。

少々長いが引用する。

「物語、小説などは、一見して、読者に親しみやすい姿をしている。いかにもA読みでわかるような気がする。あまり難解であるという感じも与えない。それでは創作がA読みだけですべてがわかるか、というとそうではない。作者の考えているのは、読者の知らないものであることがうすうす察知される。このとき、読者は既知に助けられ、想像力によって、既知の延長線上に新しい世界をおぼろげにとらえる。こういうわけで、同じ表現が、Aで読まれるとともに、Bでも読まれることが可能になる。創作が独得のふくみを感じさせるのは、この二重読みと無関係ではあるまい。」(外山,p.201)。

筆者による本の多様な読み方の紹介である。

このほか、メタ化するテクニックが紹介されているので、参照されたい。

 

外山が指摘する二次的思考(メタ思考)に関連した書籍の紹介

細谷功氏による『メタ思考トレーニング 発想力が飛躍的にアップする34問』2016,PHPビジネス新書

この本はビジネスの世界におけるメタ思考の重要性を説いたものである。著者はこの本の目的を「思い込みや視野の狭さから脱して、意味のない常識や慣習、前例にとらわれることなく、自由に、あるべき姿や理想の社会を実現するための方策を考えたい人に本書を送ります。」と述べる。ビジネスマンを対象に書かれた本であるが、今回はこの本を外山氏のメタ化・論文執筆に関連づけて読んでみた。

この本の全体像は、つまりメタ思考とは大きく以下の3つの方法で構成されるという。ただし、著者自身が「メタ思考」そのものの説明が抽象的に表現されるものであるから、あくまでもひとつの切り口としている。

  1. 自分を客観視する、「無知の知」を認識する、「〇〇そのもの」を考える
  2. why思考を使って上位の目的を考える
  3. アナロジー思考を使って、抽象化して新たな発想を生む

1 自分を客観視する、「無知の知」を認識する、「〇〇そのもの」を考える

これを研究論文執筆にそって考えるならば、自分の問題意識がこれまでの研究のなかで一体どこに位置づけられるものなのかを明らかにすることであろう。筆者は、この本のなかで「与えられた問題を疑わずに『それありき』と考えてアクションを起こし始めるか、『そもそもこの問題でよいのか?』と疑ってかかるかの違いということ」と述べているように、自分の問題意識を冷静に客観的にみる=自分の問題意識を疑う、ということである。先行研究の中での位置づけを考えること=問題に対する視点を変えることがメタ思考の最初のステップなのであろう。これによって自分の研究課題としてよいのか、する価値があるのかを判断するのである。

2 why思考を使って上位の目的を考える

これは考察したい問題の根本を探るときに有用であろう。筆者は、Why思考は過去にも未来にも使える有用な思考方法と述べる。論文を執筆する際にはとくに過去にさかのぼるのことが多いのではないだろうか。筆者がいうように、過去に向けて「なぜ?」を問うことで結果に対する原因という「因果関係」を探ることができる。ただ、社会科学では多様な要因があることから因果関係を明らかにすることは容易なことではない。調査によって因果関係を明らかにしようとする際も、本質に迫る質問を作成しないと表面的なことしか見えてこないかもしれない。

3 アナロジー思考を使って、抽象化して新たな発想を生む

論文のタイプにもよるであろうが、このアナロジー思考を使って、将来を予測することができるかもしれない(仮説を作れるかもしれない)。

この本は、ビジネスマン向けにメタ思考の基本とトレーニングが入っている。実際にやってみると具体的な思考訓練にもなるだろう。ビジネスマン向けの本であるが、多くの人がインスピレーションを得られる本かもしれない。

 

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