世にもすばらしい仕事をした人の勉強術とは? 木原武一『天才の勉強術』より
木原武一(1994)『天才の勉強術』新潮社
「人間の生涯は、ものごとを学び続ける果てしない旅である。」
人は学びつづけなければならないという。なぜか。筆者は不完全な人間が不完全な社会に生きているからだという。筆者はとてもわかりやすく説明する。
人間は生きているかぎり学習から解放されることはないと考えたほうがよさそうだ。
しかし、いつまでも学び続けなければならないというのは、未熟であることの証拠ではなかろうか。人間が「完成」されることはけっしてないだろう。(中略)人間は生まれてから死ぬまで、つねに未熟な状態にとどまり、いつまでもなにごとかを学び続ける。しかし、いつまで学び続けても、いぜんとして未熟な状態を脱出できないのはなぜなのか。それは、人間が社会という、変化してやまない不完全なものをつくってしまったからである。もし「完全不変な」社会が実現したら、人間は努力することも、学ぶこともなくなるだろうが、たぶんそういう社会は千年たっても出現しないだろう。
未熟な人間と不完全な社会-それでも、人間は数えきれないほど多くの世代にわたってものを学び続けて飽きることがなかったのはなぜなのか。
この本は、この「なぜ」に応えている。モーツァルト、ニュートン、ゲーテ、ナポレオン、ダーウィン、チャーチル、ピカソ、チャップリン、平賀源内という9人をとりあげ、その勉強術を紹介したものである。「天才」ということばを使ってはいるが、筆者のことわり書きがあるように、この本でつかわれる「天才」は、世にもすばらしい仕事をした人という意味である。
チャップリンの勉強術
チャップリンは、他人の意見に耳を傾けない自信家であったが、他方では大変謙虚な方であり、観客の反応をとても重視していたということである。未公開の映画を街の小さな映画館で実験的に公開して、注意深く観客の反応を伺い、再編集をすることもあったらしい。
チャップリンのアイデア発見の秘訣が紹介されている。
「あなたの心を刺激する対象をとりあげて、それを追求し、掘り下げる。もしそれ以上に発展しそうにないと思ったら、諦めてほかの対象を探しなさい。たくさんの中からひとつずつふるい落としてゆくことが、望むものを見つけ出す近道なのだ。では、どうやってアイデアをつかむか。それにはほとんど発狂一歩手前というほどの忍耐力がいる。苦痛に耐え、長いあいだ熱中できる能力を身に着けねばならぬ」
「長い間の経験から、アイデアというものは、それを一心に求めてさえいれば必ずやってくるということを発見した。たえず求めているうちに、いわば心が、想像力を刺激するような出来事を見張る一種の物見やぐらになってしまうのである-一片の音楽、一夕の日没からアイデアが生まれることもありうるのだ。」
「一心に求めてさえいれば必ずやってくる」。
「必ずやっている」といういうが、それがいつやってくるのかがわからない。能力を身に着けつづけながら、その苦痛に耐え続けることが秘訣なのだという。