1980年代初頭の文房具エッセイ
別冊暮らしの設計NO.6『文房具の研究 手になじんで放せないものを探しあててみました』中央公論社,1981
この本には、唐十郎、矢吹申彦、赤瀬川原平、市浦潤、西尾忠久、串田孫一らの文とともに、鉛筆、万年筆、消しゴム、カッター、タイプライターなどがカラー写真とともに掲載されている。本当にこの時代の雑誌は読み応えがある。
このなかから、串田孫一氏の道具に対する思いを引用する。
「私は、物さし、定規の類をいくつか持っているが、ある小さい三角定規は、道でひろったもので、たぶん小学生がすてたのだと思うが、定規としては使い物にならないが、まん中にあいている円形の穴の大きさがほどよく、原稿用紙やノートにⒶとか③などとかくのによく使う。手で〇ぐらいはかけるけれども歪むのがいやでそれを使う。
また、やや厚味のあるボール紙を使って、わざわざ定規を作ってあるのは、真直ぐに線をひきたいけれども、定規を使ったように見せたくないときには、これを使うと、私の手は非常に器用で、まるで定規を使ったように線が引けるように知らない人の目には見える。」(pp.154-155)
こんなふうに使っているのか。おもわず微笑んでしまうような文章である。こういうことをしたいから、こういう道具を使う。道具を使うことを楽しんでいる筆者の姿が思い浮かぶ。
串田氏の文章は、とても読みやすい。文房具に対する筆者のこだわり、やさしい眼差しが感じられる。
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