文具の歴史を語り継ぐ本
田中経人(1972)『文具の歴史』リヒト産業株式会社
「序」からの引用。
本書の最も欣快とするところは、長老の方々の、その時代を反映して余す所がない貴重な座談です。是非、頁を開いていただきたいと願っています。もとより、この書は文具をもうらしていません。しかもその中に誤伝がないとは言い切れません。しかしながらこの書によって文具に大様を認識することは出来ると自負しています。
この本では、当時の老舗文房具店の社長や会長さんたちとの座談会(一)~(五)にはじまり、筆、墨、硯、ペン先、万年筆、ボールペン、タイプライター、消しゴムなどについてその歴史について丁寧に語られている。
たとえば、「ペン先」の項には、以下のような記述がある。
今から約4000年前、フェニキア、アッシリアなどの国で、獣骨、芦の茎などをとがらせて書字に適するように細工したものを使用していた。また他に、古代地中海沿岸の国々では、甘蔗ペン、竹ペン、針先ペン、羽ペンなどを使用し、樹皮や草茎の汁などから作ったインキで書字していた。羽ペンは鵞鳥の羽を利用して始めてギリシャで作られたもので、これがしだいに改良されて、5、6世紀頃になって一般に愛用されたのである。その後、羽ペンの材料もほとんど鵞鳥の羽のみを使用していたため、鵞ペンの名が生まれた。鵞ペンの尖端は細く削って、切れ目をつけている。書きにくくなった場合は、さらに尖端を削って使用する。現在の鋼鉄ペンの先駆をなすもので、美的にもすぐれている。洋画の中でもしばしば鵞ペンを使用する場面を見ることがあるが、一種の優美さを感じさせる。
老舗文房具店の会長・社長から直接語られるそれぞれの会社の歴史とともに、文房具に関する過去の文献を丁寧に整理していて、とても興味深い本である。
出版が1972年、45年前の本である。文房具の文献として歴史に残す価値があるものであろう。