アメリカのイエロー・リーガルパッドの歴史をひもとく~35年前の雑誌『文房具事典』より
イエロー・リーガルパッドとは
最近では、日本でもよく見かけるようになったイエロー・リーガルパッド。メイド・イン・USAのみならず、日本製も見かけるようになった。文房具専門店- 銀座「伊東屋」もオリジナルのリーガルパッドを販売している。
リーガルパッドの標準的な仕様は、外形サイズが215mm×298mm程度。ほぼA4判。ちなみに、A4サイズは210mm×297mm。
色とサイズがA4と微妙に違うことには意味がある。黄色という目立つ色で、かつA4と微妙にサイズが異なることから、A4コピー用紙などの白い紙に混じってもすぐわかる。リーガルパッドは下書きやメモに使用されることが前提である。非常に合理的だ。台紙が厚く、立ったままでもメモがとれる。
以下は、個人的に使用している、Amazon、伊東屋、Meadのリーガルパッド。
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特徴
- 用紙上端にはミシン目加工が施され1枚ずつ切り離すことができること。
- 用紙の左端から1.25インチの箇所、用紙を縦断する罫線「マージン線」
切り離したリーガルパッドとA4用紙の大きさの比較
A4用紙(白)と切り離したリーガルパッドを比較すると縦方向が1.9cm程度短くなる(伊東屋リーガルパッドの場合)。メーカーによってこの部分の差は異なるのかもしれない。
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イエロー・リーガルパッドの歴史
1883年に出版された雑誌『文房具事典』のなかにあるリーガルパッドの歴史に関係する記事を紹介したい。
(1983)『文房具事典 文房具を探す夢の旅へあなたも参加しませんか?』ステレオサウンド社
この本の冒頭には、「ライシャワー教授の文房具」と題する市浦潤氏によるライシャワー教授へのインタビュー記事が掲載されている。かなり硬派な雑誌である。ライシャワー氏は、ハーバード大学教授。駐日アメリカ合衆国大使(1961~1966年)。文房具の雑誌にこのような経歴の人とのインタンビューが掲載されるとは。当時の雑誌は、後々に読んでも価値のある記事を掲載していたことがわかる。
アムパッド社とイエロー・リーガルパッド
ここでは、市浦氏によるイエローリーガルパッドのオリジナルをつくっているアムパッド社の取材記事について引用してみたい。
市浦氏による記事のタイトルは、「”鉛筆”のイメージでつくったというエンパイヤ・ステート・ビルディング。ボクをいつでもマンハッタンのスカイ・スクレイパー(摩天楼群)のただなかにつれていってくれるのは消しゴム付黄色鉛筆だ」。最近の感覚でいうと「タイトルが長すぎ」であろう。
アメリカは、オフィスに限らず、とにかく黄色が多いらしい。イエロー・キャブ、スクールバス、ハイウェイの工事用の車、ニューヨーク市警のレインコート、駐車禁止区域の歩道の端のペンキなどが指摘されている。アメリカにはいったことがないので、映画社テレビ番組を見ていると確かにそう思う。刑事ドラマでみる事件現場を保存するための「keep out」のテープも黄色だ。日本の警察も黄色のテープを使っているらしいが、アメリカの影響か。
取材記事のなかで、アムパッド社の副社長から”リーガル”の由来について解説されている。以下、引用する。
リーガルとは、紙のサイズの規格という意味でのリーガルではなく、弁護士が使うということでのリーガルだそうだ。イギリスの2つ折り紙が弁護士の使う標準的なものであった時代に、横罫で、左に赤でマージの線をひいて、上部を糸で(今はステープラーを使うが)綴じ、ミシン目を入れたものを作ってほしいという要望を、バルチモアの裁判官がステーショナリーストアーを通して、アムパッド社に持ち込んだのがそもそもの始まりであった。しかし、このときすでに紙の色が黄色であったか、裁判官が望んだかは、判明していないということだった。
弁護士は法定なり、仕事なりでメモや記録をとるのにこのリーガルパッドを使い、秘書があとで白い紙にタイプするのだ。黄色は下書き、手書きの書類であることを色で訴えて、机の上でも、他の書類に混じってもわかるようになっている。
また、当時のアムパッド社会長の発言のなかに、リーガルパッドの特徴のひとつである表と裏にひかれた横罫の線が完全に一致していることについての説明もある。
裏の線が表に見えるとまぎわらしいので、とくに注意して引いていること、そして、わざわざ両面線を引く理由は、使うことを考えてではなく、紙がそるのを防ぐためである。
この雑誌自体が1983年(昭和58)の発行であり、35年前の話である。両面に線を印刷する理由が、現在も紙のそりを防ぐためなのかは定かではない。
この雑誌には、このほか「ボールペンの過去・現在・未来」という項では、ボールペンの歴史が多くのカラー写真とともに掲載されていて、文房具に関しての貴重な資料である。さらに、「万年筆博物館」の項では中園宏氏とすなみまさみち氏の二人がコレクションと資料を提供している文章がある(文はすなみまさみち氏が担当)。二人とも著名な万年筆コレクターである。
あらためて思うが、一つの雑誌(事典)をつくるためにどれだけのリソースを投入しているのか。恐れ入る。
個人的に使用しているリーガルパッド
個人的に普段使用しいてるのは、Amazonオリジナルリーガルパッド、伊東屋リーガルパッドL、Meadリーガルパッドある。
Amazonオリジナルリーガルパッド
Amazonのパッドは価格的に非常にリーズナブル。購入したときは12冊(1冊50枚)で1,244円だった。Amazonオリジナルの用紙は薄いので使い捨てに近いメモなどに活用している。二つ穴パンチで穴を開け、バインダーに綴じておくには用紙が薄く強度がたりず、穴部分がやぶけてしまう。一定期間保存するという目的ではなく、あくまでもメモ用としてはおすすめである。
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当然ながら、Amazonと伊東屋ともに用紙上端にミシン目加工が施されている。ただ、伊東屋リーガルパッドの方がミシン目の加工が丁寧であり切り離しやすい。個人的な感想であるが、Amazonは慎重に作業しないとミシン目以外で切れてしまう。
伊東屋リーガルパッドL
伊東屋のリーガルパッドLは3冊(1冊50枚)で864円(税込み,2017年時点)である。1冊あたり288円(税込)。Amazonオリジナルよりも、2倍以上の価格である。Amazonオリジナルよりは厚くしっかりした用紙である。バインダーに綴じても穴部分はしっかりしている。ただ、ルーズリーフよりは薄いので紙の厚さはそれぞれの使用環境によって好き嫌いがあるだろう。
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Meadリーガルパッド
Meadリーガルパッドは5冊(1冊50枚)で1,764円(税込み,2018年時点)である。1冊あたり353円(税込)。伊東屋リーガルパッドLよりもさらに高価なノートである。しかし、価格相応に裏写りしない厚手の紙になっている。伊東屋リーガルパッドよりも厚い紙である。使用するペンによってこのMeadリーガルパッドが必要な場合もあるだろう。
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Mead(ミード)は、1882年にMead Paper Companyとして設立された老舗文房具メーカーである。
Mead リーガルパッドの特徴
アコ・ブランズ・ジャパン社ウェブサイトより引用
- ベーシックで機能性を重視した定番リーガルパッド
- 日本市場向けに各種ペンでも快適に筆記できるよう紙厚仕様
Meadリーガルパッドと伊東屋リーガルパッドとの比較
色は、伊東屋リーガルパッドのほうが黄色が濃い。マージン線はMeadが2本、伊東屋が3本となっていて、伊東屋リーガルパッドのほうがマージン線の存在感がある。他方、横罫線の青色はMeadの方が濃い。線の数は同じであるが、Meadは最下に、伊東屋は最上に罫線が引かれている。
さらに、Meadには上の写真のとおり表紙がついている。
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裏の厚紙の比較。
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リーガルパッドホルダー
個人的に使用しているリーガルパッドのホルダーを紹介してみたい。実は、リーガルパッド専用のホルダーというわけではなく、プロダクトデザインを中心に東京の中目黒で活動する クリエイティブユニット『TENT』による<HINGE>という商品である。商品の詳細については、TENTウェブサイトをご覧いただきたい。
個人的には以下のように使用している。
右側に伊東屋リーガルパッドを挟み込み、メモした紙を左側のクリップでとめておく。<HINGE>は、左側に紙を挟みこんでおくことができるが、念のためにクリップを使用している。ミーティング終了後は、左側のメモは一時的に保存したり、二穴パンチをあけて保存している。
このTENTの<HINGE>が決定的に優れているのは軽量であるということである。リーガルパッドそのものの裏には厚紙が使われているので、ホルダーは表紙部分をカバーできればよい。これを使用することによって、リーガルパッドの紙が折れたりすることもない。自分のなかではリーガルパッドの使用方法として定着している。補足であるが、<HINGE>はペンも挟み込めるので便利だ。
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どのリーガルパッドを選ぶかはユーザーの使い方次第
個人的には、手書きメモは伊東屋オリジナルリーガルパッドを使用することが多い。Meadリーガルパッドを使いたいとは思うこともあるが、やはり高価な点が個人的には少々難点である。重要なメモはバインダに入れて保管することがしばしばあるので、できるだけ厚手の紙が好ましいからだ。伊東屋やMeadは、一定程度の保存しておく場合、または保存版とする場合の使用に向いていると思う。紙がしっかりしてる点は二穴パンチした場合にも紛失のリスクが下がる。
単なるメモ、電話メモや連絡メモ、指示メモに使用するのであれば、アマゾンが非常にリーズナブルであることは間違いない。こちらをおススメできる。当然ながら、どのリーガルパッドを使用してもプリンタから出力した白い用紙との区別がつきやすい。リーガルパッドの利点は失われることはない。いろいろな種類のリーガルパッドが手に入るので、状況によって使い分けるとよいのかもしれない。
雑誌『文房具事典』
昔の雑誌はとにかく情報量が多い。読むたびに、その情報量には圧倒される。この雑誌が発行された1983年は、情報量が雑誌の品質の決め手であり、ほとんどの人が新しい情報は”雑誌”から得ていた時代である。とにかくみんなが雑誌を買っていたことを覚えている。出版業界のことは詳しく知っているわけではないが、出せば売れる時代であったはずだ。
また、インターネットやパソコンがなかった時代を考えると、その編集の作業量には恐れ入る。当時、どこまでデジタル化が進んでいたかはわからないが、きっとアナログ的な仕事が多かったことであろう。豊富な情報量ゆえに、30年以上たった今でも読む価値があるものだと思う。ただ、情報量が多いので最近の雑誌と比較すると文字が小さい。おじさんには少々困るのだ。
関連情報
ステレオサウンド社は、1980年代に今回紹介した本を含めて文房具に関する本をして2冊(別冊)を出版している。
- 1983『 文房具事典 文房具を探す夢の旅へあなたも参加しませんか?』
- 1984『文房具図鑑 さあ、いっしょに、いい文房具みつけませんか?』
市浦潤氏の著作
- 市浦潤(1986)『文房具 知識と使いこなし』新潮文庫