哲学的思考を大人の勉強に活かす
小川仁志(2014)『覚えるだけの勉強をやめれば劇的に頭がよくなる』PHP研究所
この本での哲学者の本である。哲学者とは、考えるプロであり、読書のプロでもある。そのような筆者からの大人の勉強方法の教示である。
この本のポイントは、やはり第1章の「勉強に使える5つの思考法」だろう。
5つの思考法とは
- 疑う
- 削ぎ落す
- 批判的に考える
- 根源的に考える
- まとめる
である。
まず、筆者はデカルトの「我思う、ゆえに我あり」という言葉をひきながら、疑うということを“思考の入口”と位置付ける。次に、必要な情報以外は捨てるという作業、さらに批判的に考える作業がつづく。批判的作業は、本当に正しいことかどうかを吟味する作業があり、具体的には、(1)議論の明確化、(2)前提の検討、(3)推論の検討、である。これは、これまで考えたことがない初めての問題に直面したときに有効だという。自らの結論については、つねにその前提は正しいのか、そこに行きつくまでの推論は論理的であるのかということを意識することが大切である。
4番目には、ゼロベースで考える=徹底的に考えることの必要性が示される。筆者はここで、フランスの思想家デリダによる「脱構築」を紹介する。伝統的発想法に依存した思考がその発想法自体がかかえる矛盾まで引き継ぐリスクをあるということを避けるため、ゼロから考え直して新たな価値を創るということだ。最後が自分の考えを書き出して意識化、すなわち自分の世界観や価値観を確立するということであるという。
個人的な感想を以下に示す。
「考える」ということは、その問題を対象化し、客観的に捉えることである。これらの問題を考えている間は、その問題から自由でいられるということだ。しかし、何の理論や哲学ももたずに「考える」ことができるのか。何ら枠組みを持たず、ただ「考える」ということは困難だし、それができたとしても、それは自由といえるのか。
筆者はこの本で、考える際の思考の枠組みを哲学のフレームワークから示してくれる。ただ、筆者はこの枠組みを非常にやさしく書いているので、逆にその重要性が伝わってこないような印象もうける。個人的にはもう少し解説があればよいかと感じた。
たとえば、本文に「必要な情報以外は捨てる」と簡単に書いてあるが、捨てる際には何が必要な情報かを判断する”何か”を自分のなかにもっていなければ捨てられない。また、批判的な思考においては、物事を絶対的に捉え、正しいかどうかを確認する作業です」とある。さらっと書いてあるが、「絶対的に捉える」などの筆者の解説があるとうれしい。
第2章「プロが教える一番はかどる勉強のしかた」は、第1章で紹介した思考法を日常生活のなかで活用するためのスケジュールの立て方から記憶方法までの具体的なアドバイス、第3章以降も大人が勉強を続けていくうえでの具体的かつ実践的なアドバイスがある。
参考にされたい。