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1950年代の万年筆の書き味と材料 三宅輝明「万年筆の書き味と材料」より

1950年代の万年筆の書き味と材料 1950年代の万年筆の製造現場

画像 万年筆の書き味と材料 三宅輝明

この論文は、1954年に朝日新聞社の『科学朝日』に掲載されたものである。
阪田製作所・研究所(のちのセーラー万年筆株式会社)に所属する筆者は、冒頭でペンの書き味について以下のように述べる。


字を書く時、頭に理想的な字の形が出来ていて、それを紙の上にあらわそうとするのだが、その際手が命令通り動かないと頭の方は不愉快を感ずる。その原因がペンにあると感ずる時、書き味が悪いというのである。

この論文の中心は、「ペンのすべりと弾力」と「インキの出具合とペン芯」の考察である。
ペンのすべりと弾力の項において、筆者は次のように述べる。

人の手の動きは3次元的なものであるが、紙にあらわされた字は2次元である。外国の字のように曲線の連続で組み立てられていれば、手の運動もかなり平面的に動かしやすいが、漢字のように節くれだったsy体を書こうとすれば、勢い手も3次元的な運動をせざるを得ない。この場合ての垂直方向の運動は紙面のクッションとペンのクッションとで吸収されてしまうのである。

鉛筆や鉄筆は、紙面のクッションだけであるが、この場合の筆跡を見ると、筆勢に応じて紙がかなりおさえつけられているのが分かる。ペンで書く時、あまり強くおさえるとインキでぬれた紙が破れてしまうから、手の垂直方向の力はペンの弾力(クッション)で吸収するのが望ましい。あまりにも弾力の乏しいペンは、この点で落第である。この弾力はペンの厚さ、曲げ加工の仕方などの影響を受ける。

この論文を読むと、60年前の万年筆づくりの現場(実験と検証)の雰囲気が伝わってくる。

また、万年筆の書き味とペン先の材料について製造上の配慮などが論じられている。

  • 字の太さ
    日本人は細字の要望が多いが細く研ぎすぎるとすべりが悪くなるといったジレンマがあることや、外国ではスベリを主体に製造していることが述べられている。
  • インキの吸入
    当時の日本の万年筆で採用されていた吸入方式を紹介しながら、アメリカの万年筆の簡単な構造の吸入方式も紹介している。
  • ペンとペンポイントの材料
    ペン材の耐酸性とペンポイントの耐摩耗性について考察している。
  • 品質管理
    製造現場において統計学を応用した品質管理が行われはじめ、品質が安定してきていることが紹介されている。

筆者は、あくまでも書き味は主観的であるとしながらも、書き味にかかわるペン自体が持つ要因として4つを指摘する。

  1. すべり
    ペン先がザラついて思うように動かない
  2. ペンの弾力
    手の抑揚に対して、ペンがクッションを持たず反撥する
  3. インクの出ぐあい
  4. 字の太さ

1950年代の万年筆製造の現場で、どのように万年筆が作られていたのかを知る貴重な文献であると思う。

 

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