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1970年代の金の高騰にともなう金ペンの変化 関根英司「高金性ペンが80年代に再現することは絶対ない」

関根英司(1979)「高金性ペンが80年代に再現することは絶対ない」『工業レアメタル』No.70

関根英司(1979)「高金性ペンが80年代に再現することは絶対ない」『工業レアメタル』No.70.

画像 関根英司(1979)「高金性ペンが80年代に再現することは絶対ない」『工業レアメタル』No.70


この論文のなかでは、1970年代の金の自由化(1973)とオイルショックの影響による金の高騰により、1980年代には”20金”や”18金”などの高金性ペンが再現することはなく、低金性ペンの開発、実用ないしは金ペンを使用しない万年筆の比率増大がさらに進行すると予想されている。もちろん金ペンがすべてなくなるというものではなく、これからは、伝統工芸技法の蒔絵、近代技術の精密鋳造とファッショナブルなデザインやジュエリー感覚を取り入れたもの、学生やビジネス万年筆向けの機能性に富んだ万年筆などへの展開を追求すべきというのが著者の主張だ。

この論文は1979年に出版されたものだが、その言葉どおり現在の万年筆は価格や利用者も非常に多様化してきている。本ブログでも紹介しているセーラーから発売された還暦万年筆『KAN』は還暦を迎える方を対象に制作されているし、また初心者を対象にした安価なパイロット万年筆カクノ『kakuno』も注目されている。この『kakuno』は、日本初の本格的な子ども向け万年筆というコンセプトの製品ですが、子どもだけが万年筆初心者ではないことから50万本以上売れたとニュースにもなった(文房具の市場規模が2008年度から2012年度までに10%も減少しているなかでです)。

今後も、万年筆が多様化し使用者の裾野が広がることは今後の万年筆メーカにとっても愛好家にとっても喜ばしいことだ。

また、この論文には「金が万年筆になぜ使われるのか」、「’80年代の万年筆の方向」、「万年筆に使われている貴金属の種類」といった項目とともに、1960年代後半から1970年代にかけての万年筆の状況について興味深いコメントがある。

「1960年代後半に出た中国製万年筆のヒーローや、1973年ごろにブームを呼んだフランス製の300円万年筆などが、その後ほとんど姿を消したままであることは、万年筆のあり方の一面を示しているともいえよう。」

 このような万年筆自体の品質がどのようなものであったのかについての記述はないが、安価であってもその品質に問題があったのかもしれない。当時の人たちには安価な万年筆に価値を見出すことはできなかったのでしょう。

 

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