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仁科成幹,高村元雄(1975)「工芸を工業化する―蒔絵万年筆」『金属材料』日刊工業新聞社

仁科成幹,高村元雄(1975)「工芸を工業化する―蒔絵万年筆」『金属材料』日刊工業新聞社

仁科成幹,高村元雄(1975)「工芸を工業化する―蒔絵万年筆」『金属材料』日刊工業新聞社

画像 仁科成幹,高村元雄「工芸を工業化する蒔絵万年筆」

この論文は、漆工芸を工業化するひとつの事例として蒔絵万年筆を取り上げ、その特性および蒔絵万年筆の今後の展開について考察されている。筆者のひとりである仁科氏はパイロット万年筆株式会社所属の方。

この論文で注目したいのは、パイロット万年筆による蒔絵万年筆の誕生についてだ。パイロット万年筆株式会社は大正14年に蒔絵を特製万年筆に加工し、最高級品として欧米各国に輸出し、蒔絵品の紹介に努めてきている。そのなかで、蒔絵万年筆の誕生について次のように記述されている。少々長いが引用する。 

「万年筆の創成の頃は、エボナイトを切断、研摩して母体軸としたが、日数が経つにしたがい黄褐色を帯び光沢が消失する欠点があり、これを改革するために、苦労を重ねた結果、エボナイトにカーボンブラックを混入し、その上に漆を塗る方法が工夫された。しかし、刷毛や筆で1本1本塗ることは時間的にロスがあり数量的にも限界があり、さらに検討した結果が「ラッカーナイト」と呼ばれる仕上方法である。これは漆自体を溶剤で希釈し、その液中に物体を入れて引き上げ、余分な液を真空ポンプで吸いとる。いわゆるディピング塗装法である。この方法は画期的なものとして注目を集め、当時イギリスのマルコニー社より実施権譲渡の交渉があったほどすぐれた方法であった。

ここから展開されて、大正14年蒔絵技法を活かした万年筆は、美しい工芸品として広く海に輸出され好評を博した。その後、イギリスのアルフレッド・ダンヒル社と代理店契約を結び、万年筆はもちろんパイプ、ライター、葉巻入れなどに蒔絵加飾を製作し、パイロットクラフトの名を欧米に高めた。」

 また、今後の蒔絵万年筆の展開については、パイロット万年筆においては蒔絵万年筆のコストについては独自の考え方を導入して、工業化について「高級品指向(高級蒔絵)」と「普及品指向(普及蒔絵)」という2つの考え方を提示され、蒔絵万年筆の戦略が示されている。

現在は、パイロット万年筆株式会社のみならず各万年筆メーカーからも蒔絵万年筆が発売され、安価なものは数千円で手に入れることも可能。これは各万年筆メーカーさんのこのような努力があったからこそなのだろう。

 

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