モノにこめられた職人の精神
暮らしの設計NO.117(1977)『世界の文房具 その豊富な種類と楽しさを満載』中央公論社
この本は、庄司薫氏による「夢の武器」というエッセイにはじまり、鉛筆、万年筆、定規、はさみ、ノート、原稿用紙など世界の文房具がカラー写真とともに紹介されている。
「いつの時代にも最近欧米事情は文房具やさんの店先にあった」という項では、丸善、文房堂、伊東屋、文祥堂という4つの老舗の文房具店の歴史紹介がある。
丸善は明治2年、横浜に創業、文房堂は明治20年、神田神保町に創業、伊東屋は明治37年創業、文祥堂は大正元年に創業、だという。
梅田晴夫氏の「ホンマモンの味わい」から引用
「なぜ私があえて≪不便≫であるかもしれないこの古めかしいタイプライターを日々つかいつづけているのかといえば、それはこの私が常に、モノをつくるにあたって、丹念に、しかも手抜きということを一切せずにつくるという、昔ならごく当たり前だった職人の精神に、直接指を通じて触れていたいという気持からである。(中略)≪ホンマモン≫に接することによって、この人生が並々ならぬものであることを肌身に感じうる生活は、常に私の心をみずみずしい緊張ではりつめてくれることによって、私に若さをも保証してくれるように思われるのである。そして、そのそのことこそが、≪ホンマモン≫の真の味わいなのだと、私は考えている」(p.164)
「自分が使うモノには、作った人の熱意や思いが込められていてほしい。どれだけの時間と思考がついやされたのか。それを感じながらコトやモノを創造したい」という筆者の考え方。道具をつくった職人も、自分たちの熱意や思いを感じてくれるような人に使ってもらいたいはずだ。この文章は、職人が道具にこだわる理由が簡潔に語られた印象に残るものだ。
本書の最後には、「世界の文房具」という項で、ソ連、ブラジル、クウェートそその周辺、スウェーデン、ミクロネシアの島々、カナダ、中国の文房具が紹介されている。1970年代の世界の文房具を紹介した記事として資料的価値が高いと思う。